キャリアスタートのきっかけ
前職はラグジュアリーな女性の既製服を展開しているアパレルブランドで働いていた鎌田さんは、通勤に自転車を利用していた。約15kmほどの距離を毎日自転車移動するために良いバイクを購入しようと考え、初めてロードバイクを手にした。これまでに乗っていた自転車とはあまりにかけ離れたそのスペックの良さに感動し、機動性の高さに楽しさを覚え、サイクルトリップに出かけ走行距離がどんどんのびていったという。
3年ほど経った頃、携わっていたブランドが解散することに。そこでまずやりたいと脳裏に浮かんだのが、ロードバイクとともに海外を旅することだった。その頃にはすっかり自転車の世界に魅了され、ツールドフランスを観に行くためにフランスへ。旅の間に自分と向き合い、今後のキャリア形成を考える。
アパレルでの実務経験と自転車好きを掛け合わせ、ごく自然にパールイズミに入社を希望した。タイミング良くネットからパタンナーの求人を見つけ、自作のバイクジャージを持って面接へ。それが2005年のこと。それから15年ほど現在のポジションで業務に従事しているというベテランだ。
今も自転車には乗っているのかと聞いてみると、現在は通勤と週末に乗るレベルだと話してくれた。が、話を掘り下げていくと、市民レースで素晴らしい結果を出したことから実力を試してみたくなり、過去に5年ほど実業団に所属していた経験がある。仕事に集中するために引退したが、その健脚は今でも健在とのことだ。
パタンナーの業務とは
人が着用する衣服は立体的だが、デザインベースでは平面。デザイナーがどんなに素晴らしい製品を企画したとしても、パタンナーの技術で仕上がる製品は大きく変わる。バイクジャージという特殊な製品ではあるが、パタンナー業務の流れはアパレルとさほど変わらない。だが、縫製工場に出す前に試作品を自ら縫い、試すにあたり、自転車に乗っている経験が大きく生かされる。
さらにはその試作品をベースに縫製工場から上がってきたサンプルを試すのも、社内のサイクリストたち。何度も微調整を繰り返し、量産できる理想の型に仕上げていく。納品のための製品の検品も怠らない。このパターン作成におけるサイクルを、1シーズンごとに丸一年かけて行う。
現行品をマイナーチェンジして継続するのであればそのままパターンを流用するが、最近のパールイズミは全く新しいコンセプトのVISIONというシリーズを発信しており、デザインも素材も変わっている。そういった場合は、ゼロからパターンを創り上げ、品質を維持しながら革新を担っているのだ。
パタンナーとしてのこだわり
こだわりを語ればきりがないという鎌田さん。それを実現したい気持ちは大いにあるが、やはり多くの人にパールイズミを愛してほしい、実際に自転車に乗っているその瞬間に集中してほしいという想いから、”着用して自然であること”が一番の願い。そのため、パターンという存在が主張されすぎず、縫い目やカッティングなどの部分で着ていないくらい自然な着心地を提供したいと考えている。
伸縮性の異なるあらゆる素材を組み合わせてはミリ単位で調整し、パッドも自社開発しているためクッションの位置も試行錯誤する。数え切れないほどのサンプルを作り、試作品を自転車通勤やローラー台に乗って試しては、微調整を繰り返す。
着心地の良さにプライオリティを置きつつも、オリジナリティも損なわない。言わばパターンは影の立役者のような立ち位置で、2つのテーマがパタンナーによってうまく調整され、顧客満足度の高い製品が出来上がっていくのだ。
仕事のやりがい
ロングスパンで様々な製品を同時進行で型を作製するパタンナー。その中で最も楽しいと感じる瞬間は、新しいものを開発し、それを試す時。製品化するにあたり産みの苦しみもあるが、納得のいくパターンが生み出せた時の喜びは大きい。
また、開発者としてインスピレーションを得ているのは、日常生活の中や自転車に乗っている時の他に、ユーザーボイスにも影響されることが多いという。展示会でバイヤーの方から頂いた声、実施に使用したエンドユーザーからの声。その全てが企画段階から反映され、パタンナーとして型を作製する参考材料になる。日々の小さな気づきや変化、お客様の声をもとに、持ちうる技術を最大件に駆使し、満足度の高い製品へと導いていく。この作業は決してコンピューターでは実現できず、パールイズミのサイクルジャージには職人ならではの”技術の裏付け”が存在する。