自転車と建築を組み合わせた活動

清水さん:「山下さんも今ではすっかり自転車にハマって抵抗感はなくなっているみたいですが、山下さんは建築デザイナーですよね。もうちょっとお仕事と趣味の境目の話をしていただければなと」

山下さん:「もちろん建築を主に仕事としているんですけども、だんだん対象が広がっていって、必ずしも物を作らない場合もあるんですよ。たとえば『今はあるものをうまく使おうよ』って活動のほうが中心になってきて。ちなみにメタボリズムってご存知ですか? そういう名前の建築運動が70年代ぐらいにあったんですけど」

 

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清水さん:「メタボって、あのメタボのことですか?」

山下さん:「細胞とかそういう意味で近いかもしれないですね。新陳代謝をする建築といって、昔日本に勢いがあったころ『未来はバラ色だから建築も大きくしなきゃいけなくなるぞ』と、造り足しやすいとか、造り変えやすい建物を造ろうってムーブメントがあったんです。丹下健三さんという有名な建築家で、唯一世界に浸透した日本の建築のスタイルです。

実はこのスタイルの建築物が東京にまだいっぱい残っていて、今、ちょっとずつ壊されてるんですけど、『壊される前に見て回ろう』というツアーをやりました。自転車で回るんですが距離が20キロぐらいなら自転車だとすぐ走れるので、シティーライドイベントとして開催しました。改めて紹介して回ると『へえ、いつも見ているけど知らかなった』みたいな感じにはなります。特に中銀カプセルタワーが有名だと思います」

 

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街を走りやすくするためにできること

清水さん:「そういう都内の活動のほかに横浜でも何かされていますよね」

山下さん:「そうですね。横浜は建築というよりも地形がメインになるようなツアーになっています。ツアーの開催にあたって名前の由来を調べると横浜もすごく面白い場所で。あの辺りはすべて江戸時代に埋め立てられた土地。横方向に浜があったら、横浜って言われていたんですよ。地図を見るとわかりやすいんですが、このあたりは自転車で走ってみるとフラットで、裏手に行くとすぐ半島の尾根がある。ちょうど山下公園のあたりから中華街のところまで、横向きの浜だったんですよ」

清水さん:「おお! 全くそんなこと知りませんでした!! 違う視点で見ると、街もかなり違って見えますね」

山下さん:「僕の場合は“建築”という本来の仕事に加え、そこに自転車を合わせた視点もあると思います。以前ストックホルムの建築博物館で行われていた『バイシクル展』を見たことがあったんですが、これは自転車の歴史と街造りの歴史を両方展示しているものでした。僕はどちらかというと、これを観るまで自転車を自分の仕事とあんまりつなげて見てなかった。でもこの2つのものは一緒なんだと、すごく分かりやすく示されていたものでした。

こういう展示をするくらいなので、ストックホルムとかコペンハーゲンを歩き回っていると、街中の造りが全然違っている。みんな自転車移動を中心に考えられているんです。

何でだろうなと思って見ていると、その種明かしみたいなものがバイシクル展にありました。クルマが20年、30年かけてだんだん減っていくことがすでに分かっていて、それを自転車で埋めていくような、街づくり、道路づくりをしているんですよ。

郊外からでも自転車で通える、という街造りを国を挙げてやっていて。自転車ががっちりそこに組み込まれているという状況を目の当たりにすると、『なるほど』と腑に落ちたのと同時に、日本で簡単に真似はできないなとも思いました。だから、急速に自転車を生活に取り入れて、みないなことはもうやめて、草の根的に活動していこうと改めて思っていますね。もちろん、その道のプロではないので、地道な活動ではありますが」

清水さん:「僕もチューリッヒで同じようなことを感じました。実際にe-bikeをレンタルしてのっていたんですが『こんな自転車と道路があったら20分でオフィスに行けて、ごみごみしてないし、最高じゃないか!』なんて思っていました。住民も300万人くらいですし、ちょうどいい気もしますし」

山下さん:「300万人だと、横浜と同じぐらいですね」

清水さん:「海外の環境とか条件をそのまま日本に持ち込むことはできないんですけども、山下さんが言うように『何かできることを』自分なりのペースですることは大切ですよね」

ようやく国も自転車に本気になった

清水さん:「 次は栗村さんのほうからの話をいただきたいのですが、元はプロのレーサーと監督をされていて、今は自転車普及協会にいてイベントや大会をプロデュースするような立場になっていると思います。その視点から今の自転車界を見てどんなことを思っていますか?」

 

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栗村 修さん:「昨年、自転車活用推進法っていうものが日本で施行され、国が『自転車を使った国づくりをしましょう』という意思表示をしたんです。本気で自転車の文化をインフラなどを含めて変えていく覚悟があるんだなということを実感しました。国が本気を出して、今後、移動手段はクルマから自転車に切り替わるという変化が起きていきます。

そうなったときにまず移動手段として、一番に考えられるのがe-bikeだと思います。はじめてこれを見たときには、選手だったこともあって『邪道』としか思えませんでした(笑)。自転車は健康のため、体力づくりのために乗るものなのに『電動アシスト』ですからね。

でも選手を引退してから、ヤマハのe-bikeに乗ったときに考えが変わりました。登り坂とか、向かい風のときとか、そういった場面でのみ電動アシストをオンにすれば、スポーツを十分に感じられますし、ムダに汗もかかないし、登りも楽。特に日本の夏は暑いですから、そんなときでも快適に日常に使える。

自転車は『日常生活←→仕事←→スポーツ』をシームレスにミックスさせやすいものですが、自転車に乗ることは移動であって、エクササイズでもあって、ファッションでもあって、発見・出会いもあって。一石二鳥にも三鳥にも四鳥にもなるものだと思っています」

 

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栗村修 (Osamu Kurimura)
一般社団法人 日本自転車普及協会 主幹調査役。国内外でのロード選手、そして監督としての経験と通じて、各種イベントのディレクターとして自転車会へのアウトプットを続ける。

100年後も自転車はなくならない

清水さん:「ヨーロッパ最大の自転車の展示会、ユーロバイクでも展示されている自転車の大半がe-bikeでした。これからどんどん世界でも日本でも進化して行くことは簡単に予想できます」

 

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栗村さん:「確かにそうですよね。でもe-bikeが進化していくと自転車じゃなくて“電動オートバイでいいじゃないか”という話にもなりますし、そうなると自転車という存在そのものが必要なくなる可能性もあります。でも僕は100年後も自転車はなくならないと思っています。というのも100年は長い時間ですけど、人間は100年間で大した進化はできないし、実際にしていないから。

人間って身体を動かしているからこそ、生体バランスが取れるところもある。きれいなものを目で見て、心が安らいだりする部分については、多分、100年そこらじゃ変わるわけがないと思います。

人間の進化より、明らかに速いスピードでテクノロジーが進化していくときに、多分人間の本来持っているバランスっていうのがどんどん置き去りにされていく。その中で自転車ってスポーツと快適さがシームレスに繋がっているe-bikeはそこに一番良いものをもたらす可能性があるんじゃないか、と思います。」

清水さん:「なるほど、ウエアに関しては僕もまだe-bike向けのものがまだイメージできないんですよ。普段着でも乗れちゃうものですし。ただし普及していくにあたって、e-bikeの使われ方が見えてくると思いますので、そこからウエアも作って行ければと考えてはいます。ちょっと考えなきゃいけないなというふうに思いました。ただ、かなり個人的なことですが、割と僕は自転車に関してのテクノロジーにうといところもあるんですが、そのあたり山下さんはどうですか?」

山下さん:「正直な話、元々はそんなに興味はなかったですね。電動の変速も最初は『何だかなぁ』思ったぐらいです。でも今は……いいと思ってます(笑)。ツアーの方でもe-bikeをどう使ったら面白いかなって話にもしています。今はバッテリーをシェアできたら面白いねっていうことを考えています。みんなで一緒に長い距離を走ったときにアシストをあまり使わないでバッテリー残量が多い人が、少ない人に分け与えるというイメージ。コミュニケーション的にも面白いよねって話をしてたんです。」

栗村さん:「おまえもうないのか、じゃあ俺のと交換するか、っていうノリですね! e-bikeのレースも行われていますし、自分たちが思いつかないことがバッテリーを使った自転車で行われていくかもしれない」

清水さん:「なるほどですね。ここでは『街×生活×自転車がシームレスにつながる未来像』みたいな話ができて、私も含め今後のみなさんの仕事や活動にも刺激的な話になったかと思います。また次の機会に別のテーマで会話しましょう。」

 

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